てただ一人イグナチオ・ヴィテリオが指名されて来たのだから、さてはと種々思いあたる節《ふし》もある。猶予《ゆうよ》はない。この皮肉な第二号の贈物を遠慮なく受け取ることにした。名簿がベルギーへ達した一時間後にイグナチオ・ヴィテリオは、兵列の前に立って一斉射撃で処理されていた。
 二日後に、この報知がパリーへはいって、第二号をにっこり微笑《ほほえ》ませている。

 沙漠のような高原にぽっちり建っている太陽の都マドリッド。そこのグランド・ホテルではマタ・アリの隣室に、英国の若い帰休士官が英雄|閑日月《かんじつげつ》を気取っている。名をスタンレイ・ランドルフ。砲兵大尉。H21がマドリッドへ着いてまもなく、クルウプ博士という土地在住のドイツ密偵支部代表者が訊《たず》ねて来て、こんな話をしてゆく。
 最近、英国の田舎ミッドル・エセックス州の奥に、周囲に高さ二十フィートの石垣をめぐらした公園|様《よう》の広場ができた。疑問は、その不自然に高い石の垣である。内部には、よほど秘密なことが行われているに相違ないが、さてなんだろうというのが、その地方のドイツスパイ間の問題になった。やっと探りえた程度では、中に
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