軍にはフランスのスパイ、二つの面を被《かぶ》って、おのおの両方に忠実なスパイを装《よそお》い、右から左、左から右へ情報を提供する。間に立って、ひとりたんまり儲《もう》けていた。これではたまらない。なにもかも筒抜けだ。が、どっちにとっても、忠実なスパイには相違なかった。両方から報酬をもらう。金になるから、自然おおいに活動して、どっちにも重宝《ちょうほう》がられてきた。右の手のすることを左の手は知らないというわけ、抜け目のないやつだった。このイグナチオ・ヴィテリオの双面《ダブル》を感づいた第二号である。
 こいつを処罰するためと、もう一つはマタ・アリの正体を暴露する動かぬ材料を獲《え》るためと、一石二鳥、やはりアルセエヌ・ルパンばりに洒落《しゃれ》っ気たっぷりのパリー人だ。皮肉な方法を考えたのだ。

 これはマタ・アリ、ベルギー行きが許可されなくて、スペインなんかと変なところへ送られたものの、第二号が予期したとおり、パリー出発に際して彼女に手交した在白フランススパイの名簿は、そっくりその地のドイツ密偵部員に内報されている。マタ・アリはああして今度フランスのためにスパイを働くような態《ふり》
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