ダへもベルギーへも遣《や》らずに、|ロンドン警視庁《スコットランド・ヤアド》特高《とっこう》課長ベイジル・タムスン卿の手で、胡散臭《うさんくさ》いやつだというので、フォルマス港からこっそりとんでもないスペインへ追放してしまう。マタ・アリもいまは盟友国であるフランスのスパイなのだから、イギリスも便利と庇護《ひご》を計ってしかるべきだが、これは、フランスからあらかじめ依頼があって、ちゃんと手筈《てはず》ができていたので、すべてはフランス密偵部第二号の画策《かくさく》だったのである。退《の》っ引《ぴ》きならぬ証拠を作ろうとしたのだ。あとでわかる。
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ベルギーにおけるドイツの占領地帯にはいり込んでいたフランス密偵部員の一人に、イグナチオ・ヴィテリオというイタリー人があった。最初に、この男の動静がくさいと気がついたのがパリーの第二号、洩《も》れるべきはずのないことが、立派に洩れている。どうも変だ。それとなく眼を付けているとこのイグナチオ・ヴィテリオは、密偵仲間でいういわゆる「二重取引《エイジェント・ダブル》」というやつをやっていることが判明した。独軍にはドイツのスパイ、仏
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