控えている。背広を着ているが、千軍万馬《せんぐんばんば》の軍人らしい風格、これが有名な「第二号の人」だった。尖《とが》った質問が順次にマタ・アリを突き刺し始める。
「尾行付きのドイツ人とたびたび会っているようですが、どういう要件ですか。」
 第二号は、卓上の報告に眼を走らせながら、急追求を緩《ゆる》めない。この時の感想を、あとでマタ・アリは、一枚一枚着物を剥《は》がれてゆくような気がしたと述べているが、裸体の舞踊家だけに、さすがにうまいことを言った。雨のような詰問《きつもん》を外して、けんめいに逃げを張る。とうとう石の壁に衝《つ》き当って、そこで全裸にされた形だ。第二号はにやりと笑う。
「つまりフランス陸海軍の動静を探って、それを報告しておられたと言うんですな。」
 マタ・アリの手には、最後の切り札が残された。
「ええ。でもあたくし、連合軍のためにしていることなんですわ。ドイツの密偵部の人には、かなり相識《しりあい》もございますけれど、良人《おっと》は英国士官でしたし、いまあたくしのお友達の大部分は、連合軍の主要な地位の方々でございます。あたくし、ほんとのことを申しますと、こういう機会
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