がまいりますのを待っておりましたの。あたくしの方は、すっかり準備ができております。いろいろドイツ軍に不利な事実も知っておりますし、あたくしがそう思うように仕向けて、先方では、あたくしを味方のつもりでおりますから、なんでも聞き出せますわ。なにとぞあたくしをフランスの密偵部にお入れ下さい。御命令どおり、どんなことでも探りだしてきて、かならずお役に立つようにいたしますわ。」
苦しい詭弁《きべん》を弄《ろう》している。とにかく、立派に自白したに相違ないから、マタ・アリはこれで即座に「処理」されるはずだった。実際、だいぶこの強硬論が優勢だったのだが、第二号は考えた。マタ・アリの知友は、軍部でも外交関係でも、幅のきく連中ばかりである。こいつを死の門に送り込むには、十分すぎるほど十分な証拠を必要とする。さもないと、あちこちの大|頭株《あたまかぶ》から、厄介《やっかい》な文句が出そうだ。これはどうも普通のスパイのように簡単には扱えない――そこで、第二号を取り巻いて私語《ささやき》を交し出す。甲論乙駁《こうろんおつばく》、なかなか決しない。マタ・アリはこっちから、大きな眼に精一杯の嬌媚《きょうび》を罩
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