い》るのが来週の水曜日と見て、そうですね、金曜日にはまちがいなく届くでしょう。」
異様に眼を光らせて聞いていたマタ・アリは、レイ氏の言葉が終った時は、もうマンテラにたいする関心をうしなったように横を向いて、小さな欠伸《あくび》を噛《か》み殺していた。ノウさんはたのもしいわくらい言ったかもしれない。
つぎの日、マタ・アリは、長距離電話でブレスト町を呼び出していた。兄と称する人物が、線のむこう端に声を持った。親類の一人が、木曜日の深夜に発病して、肺炎になった。つぎの週の水曜日に入院するから、それまでさっそく看病に行ってもらいたい――マタ・アリは電話でそう言っている。ただちにブレストから、オランダのロッテルダムへ電報が飛んだ。電文は、ブレストの一カフェが鰯《いわし》の罐詰《かんづめ》を註文している文章だった。何ダース、何月何日の何時に着くように、どうやって送ること――そして、ロッテルダムからは、暗号電報が海底深く消え去る。
三日後の金曜日、真夜中である。
ビスケイ湾、あそこはいつも荒れる。ことに、その晩は猛烈な暴風《しけ》で、海全体が石鹸の泡のように沸《わ》き騒いでいた。連合軍の食糧
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