を満載して、前夜バルセロナの港を出帆《しゅっぱん》したコロナ号は、燈火が洩《も》れないように、窓という窓を毛布で覆《おお》って、木の葉のように揺れながら、けんめいに蒸気《ステイム》をあげていた。ポルトガルの海岸線を右に見て、一路ビスケイのまっただ中へさしかかる。前檣《ぜんしょう》に見張りが立っていたが、空は、風に飛ぶ層雲が低く垂れて、海との境界さえ判然しない。てんで見通しがきかなかった。
前面の波上に潜望鏡の鼻が現われる。水雷を必要としない近距離だ。ほっそりした砲塔が浮び出る。潜航艇の舷側《げんそく》を海水が滝のように滑り落ちた。暗い水面を刷《は》いて、コロナ号の船内に非常警報が鳴り響いている。その悲鳴を[#「悲鳴を」は底本では「非鳴を」]消して、つづけさまに砲声が轟《とどろ》いた。十七分で沈んだ。一人も助からなかった。約束のマンテラも沈んでしまったので、ノルマン・レイ氏は、マタ・アリはどんなに失望するかと思ったところが、それほど失望もしなかったというが、それはそうだろう。
6
欧州大戦には、あらゆる皮膚の色の人種が登場していて、それだけでもいまから想えば華麗|
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