わねえ。」下品なようだが、そんなような意味のことを言った。
「あたしスペインのマンテラが欲しいんですけれど、いまパリー中のどこを捜《さが》してもないんですって。つまんないわ。」
「なに、スペインのマンテラですか、あれが欲しいんですか。そうですか。」
ノルマン・レイ氏は、すぐ顔を輝かして乗り出してきた。今夜どういうものか機嫌が悪くて、些《いささ》か持てあましていたマタ・アリが、急に天候回復して少女のようにねだりだしたのだから、彼は、カイゼルが降参《こうさん》したように嬉しかったのだろう。四角くなって引き請《う》けた。
「よろしい。大至急スペインから取り寄せることにしよう。バルセロナの特置員《エイジェント》へ電報を打って、つぎの便船で送らせますから、わけはない。」
「あら、素敵! すると、いつ来て?」
ノルマン・レイ氏は、商船《マリン》サアヴィスの理事なのだ。連合国の汽船の動きを、脳髄の皺《しわ》に畳《たた》み込んでいる人である。
「待ちたまえ。」日を繰《く》って考えている。「今日の火曜日と――木曜日の真夜中に、コロナ号がバルセロナを抜錨《ばつびょう》する。聖《サン》ナザアルへ入港《は
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