うんといる。みんな他人に戦争させてのらくら[#「のらくら」に傍点]しているブルジョア連中である。またあのマタ・アリが来るというんで爪立《つまだ》ちして待ちかまえていた。ニュウリイに素晴らしいアパアトメントがとってある。戦時でも、パリーの灯は華やかだ。すぐに女王マタ・アリを中心に、色彩的な「饒舌《じょうぜつ》と淫欲《いんよく》と流行《ファッション》の宮廷《コウト》」ができあがって、われこそ一番のお気に入りだと競争を始める。この美貌の好色一代女があにはからんや、H21などという非詩的《プロザイク》な番号をもっていようとは、お釈迦《しゃか》様でもごぞんじなかった。この宮廷の第一人者は、とっくに最大の獲物として狙ってきた仏内閣の閣僚某、メエトルをあげてマタ・アリのパトロンになった。が、外部へは綺麗《きれい》に隠して、閣議の帰りやなんかに、お忍びの自動車を仕立ててニュウリイのアパアトへしきりに通っている。例の厳命がある。いっこう訳がわからないが、とにかくマタ・アリはそれを守って、なにも訊《き》かなかった。大臣はもとより、なにも言わない。寄ると触ると、だれもかれも話しあっている戦争のことを、不自然
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