とに陸海軍、民間|運漕《うんそう》関係の有力者を逃がすな。H21は、その有《も》てるすべてを彼らに与えて、彼らから聴き出した知識を逐一《ちくいち》もっとも敏速に通牒《つうちょう》せよ――そして、一つの注意が付加された。
「忘れてならない例外がある。その某閣僚にたいしてだけは、いかなる場合、いかなる形においても、H21の方から能動的に、なにか探り出そうとするような言動を示してはならぬ。これだけは厳守すること。」
というのだ。命令はわかったが、この最後の理由が腑《ふ》に落ちない。一番の大物に探りを入れて悪いなら、それでは、いったいなんのために生命を賭《と》して近づくのか、その動機が呑《の》み込めなかった。が、すでに数年密偵部にいるのだから、下手《へた》に反問することの危険を熟知している。すべて命令は鵜呑《うの》みにすべきで、勝手に咀嚼《そしゃく》したり吐き出したりすべきものではない。マタ・アリは、黙ってうなずいた。
オランダの市民権をもっている。難なく国境を通過してパリーへはいった。初めて来るパリーではない。以前この裸体のダンサアをパトロナイズした政界、実業界の大立物《おおだてもの》が
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