る。ドイツ文の原文に添《そ》えて、族王《エミア》が読めるようにというのでアフガニスタン語の翻訳を携《たずさ》えて行く。問題はこの訳文だった。
 厳密に調べると、どうも誤訳が多いというのである。それも原文にあるよりも、アフガニスタンに有利にとれる間違い方だった。そんなこととは夢にも知らない族王《エミア》が、その曲筆《きょくひつ》の訳文を見て、そうか、これならいいだろうというんでにこにこ署名をしようもんなら、ドイツはたちまち儲《もう》け物だ。こっそり舌を出そうという寸法。人が悪いようだが、どうせ帝国主義下の国力伸長のからくりなぞ、みんなこんなようなもので、ドイツが格別不正なわけではない。ことに小国にたいする場合、どこの国も平気でかなりひどいことをしてきている。これを称して国際道徳という。
 で、莫迦莫迦《ばかばか》しいようだが、ドイツは、盲人《めくら》に、よいように手紙を読んでやる長屋の悪書生みたいな遣《や》り方で、アフガニスタンを誤魔化《ごまか》してなにかせしめようとした。それがなんであったか、ハッキリ判明していない。戦時における鉄道沿線警備に関する申し合わせ、そんなような問題だったらし
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