魔《じゃま》しないように足止めしておくことができれば、まず成功だが、その上で、もし機会に恵まれたら、英対アフガニスタンの関係にも、ちょっと糸を引いてみるがいい、というのだ。腕に縒《よ》りをかけてかかる。
 紹介されると、深い茶色の眼を、その背の高いイギリス人の上に微笑《ほほえ》ませて、
「あら、ヘンダスン少佐でいらっしゃいますの? あたくし、古いお友達のような気がいたしますわ。どこかでお目にかかったことがございますわねえ少佐。」
 甘い抑揚《よくよう》をつけて言った。嫣然《えんぜん》一笑、東洋でいう傾国《けいこく》の笑いというやつ。そいつをやりながら、触れなば折れんず風情《ふぜい》、招待的、挑発的な姿態を見せる。ところが、少佐の声は、興《きょう》もなさそうに乾いたものだった。
「そうでしたか。どこでお会いしましたかしら。」
「いやですわ少佐。あたくし思い出しましてよ。あのほらインドのボンベイ。」
「いやそんなことはないでしょう――僕も思い出しました。」
「あら、どこ、どこ、どこでございますの?」
「ベルリン市ドロテイン街一八八番邸。」
「あらっ!」虚を衝《つ》かれたマタ・アリは、たちま
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