軍人というよりも、ジャアナリズムの触手の通信員|型《タイプ》の人物だった。H21はこれへぶつかっていったのだが、もしマタ・アリが眼先のきく女だったら、この失敗で、ドイツのスパイとしての自分が案外知れわたっていることに気がついて、そうとう警戒の必要を感じたことだろうが、元来この踊り子のスパイは、スパイのためにスパイを働くような性格で、たぶんに、盲目《めくら》蛇《へび》に怖《お》じずというところがあった。いっこう平気で、その後もさかんに活躍している。結局ドイツの密偵部にさんざん踊らされて、死へまでダンスする運命だったのだ。
ソフィアで、ドイツ大使ゲルツに紹介されて、マタ・アリはヘンダスンに会う。目的は、イギリスとアフガニスタンの外交上の一つの秘密事項を聞きだすため。しかし、相手が、定評ある腕|利《き》きなので、初めからたいした収穫は予期していなかったが、それだけにまた、マタ・アリとしては、腕の見せ場になろうというもの。ちょうど当時、ドイツとアフガニスタンとの間にも進行しつつある交渉に関して、ドイツ密偵部員が潜動しているあいだ、ほんのしばらく、ヘンダスンの注意をマタ・アリの身辺に集めて邪
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