流のでたらめに近いものだったに相違ないが、裸体なので評判になった。ことに東洋人というふれこみだからいたるところで珍しがられて、瞬《またた》く間にいい贔屓《ひいき》がつく。われ来り、われ見たり、われ勝てりで、本国のオランダでは、当の首相、ベルリンでは例のお洒落《しゃれ》な皇太子を筆頭《ひっとう》に政府のお歴々、フランスでは陸軍大臣が、それぞれ彼女の愛を求めて、そして当分に得ている。その他知名無名の狼連にいたっては、彼女自身記憶できないほどだった。
 ドロテイン街の家に落ち着いたのはよほどのちのことだが、この家はマタ・アリの活動とともに、ドイツ人はいまだにだれも忘れていない。近所では、とてつもない金持の女が住んでいるのだとばかり思っていた。家具、室内装飾等、贅《ぜい》を尽《つく》したものであったことはもちろんだが、各室いたるところに、あらゆる角度に大鏡が置かれてあって、屈折を利用して思いがけない場所から覗《のぞ》き見できるようになっていた。室内に一人でいても、この鏡の関係と、天井の通風口の格子《こうし》とに気がつけば、上下左右に無数の見えない視線を意識したはずだ。素晴らしい床ランプのコウド
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