、給料だけではたらないから、マルガリットは、良人《おっと》の命令で、同僚の所へ金を借りにゆかなければならない。それも、どんなことでもいいから、先方の言うとおりにして、ともかく借りてこいと言うのだからひどい。植民地の若い軍人だ。独身者が多い。周囲は黒い女ばかりの所へ、マルガリットは白い中でも美人である。要求と媚態《びたい》に、みな争って金を借すようになった。まもなくマクリイ夫人は人妻なのか、連隊付きの売笑婦なのかわからなくなってしまう。そんな生活が続いた。マルガリットもだんだん慣れて平気になる。後年マタ・アリとしての活躍の素地は、このインド時代に築かれたものだ。自伝では、ここのところをちょっと浪漫《ろうまん》化して、神前に巫女《みこ》を勤めたなどと言っている。
この間に、舞踊をすこし習った。もちろん祭殿で踊ったわけではなく、ヨーロッパへ帰っても、寄席《よせ》ぐらいへ出て食えるようにしておくつもりだったのだろう。Mata Hari という名は、いうまでもなく自選自称だ。
四年ののちヨーロッパへ帰ると同時に、離婚して、初めて踊り子マタ・アリとして巡業して歩く。舞踊そのものは、どうせ彼女一
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