式の旅行なのに、ベルリン停車場へ着いてみると、大変な騒ぎだから、アバス・ヌリ殿下は、どうして知れたんだろうと不思議に思っている。が、どの途《みち》、歓迎されて悪い気はしない。欧亜雑種《ユウラシアン》の女富豪かつ天才的舞踊家として、マタ・アリが殿下に紹介されたのは最初の晩餐《ばんさん》会の席上だった。
あとはわけはない。計画どおりに進んで、マタ・アリの嬌魅《きょうみ》が、殿下をドロテイン街の家へ惹《ひ》きよせる。応接間を通り越して、彼女の寝台《ベッド》へまで惹《ひ》き寄せてしまった。
アバス・ヌリ殿下は、よほどマタ・アリが気に入ったのだろう。朝になると、政府が狙《ねら》っていたように、マタ・アリをコンスタンチノウプルへ同伴するといいだした。こうして、一夜ばかりでなく、マタ・アリを殿下に付けておいて、ドイツに好感を持たせるように仕向け、その間に、側面から運動しようというドイツの肚《はら》だった。で、マタ・アリも大いに喜んで、殿下のお供をしてトルコへ発《た》とうとしていると、パリーのエジプト関係者から思いがけない電報が飛んで来て、このドイツの策略はすっかり画餅《がへい》に帰してしまった。
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