のいわゆる三先進国が、めいめい自分の国へ来てもらいたいので、それぞれ有利な条件を持ち出し、自己宣伝をやって、まるで宿屋の客引きのように、ここに猛烈な留学生の争奪戦が開始される。
 トルコの学生なぞどこへ留学しようと、ヨーロッパの大勢にはいっこう関係ないようだが、それがそうでない。というのはいまでこそ書生だが、みな一粒|選《よ》りの秀才である。これが外国の大学に学んで、法政経済、工科学百般、各自専門を修めて帰国すると、トルコ革新の第一線に立って大臣参議、国政を調理してトルコを運転しようというのだから、いまその書生連がどこへ留学するかは、十年二十年後のトルコが、英色に塗《ぬ》られるか、仏色を帯びるか、独色を呈《てい》するか、つまり将来の対トルコ関係がいま決定されるといっていい。トルコを中心に、近東方面への投資進出と商品販路の開拓を計画している三国だからぜひ俺の国へというので、自然激烈な競争になった。
 ところが、ドイツの旗色が悪くて、留学生はいずれも英仏へ奪《と》られそうである。こうなるとドイツの誇るいわゆる文化《クルツウル》の威信《いしん》にもかかわる問題だ。政府はいつしか躍起《やっき》
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