たくらいだ。家系に黒人の血でも混入しているのか、浅黒い琥珀色《こはくいろ》の皮膚をしていて、それがまた、魅惑を助けて相手の好奇心を唆《そそ》る。倦《けだる》い光りを放つ、鳶色《とびいろ》の大きな眼。強い口唇に漂っている曖昧《あいまい》な微笑。性愛と残忍性の表情。

        3

 ようするに手先だった。マタ・アリの専門は、男の欲望を扱うことだけで、淫奔《いんぽん》で平凡な女でしかなかったが、この平凡なマタ・アリの背後に在るドイツのスパイ機能は、およそ平凡から遠いものであるこというまでもない。それがマタ・アリを大々的に利用したのだ。娼婦《しょうふ》型の美女が、微笑するスパイとして国境から国境を動きまわる。戦時である。歴史的な※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《そう》話にまでなってしまった。
 トルコに教育制度の変革が起こって、その委員会が生まれると、第一着手として、百五十人のトルコの学生を外国に留学させることになった。人選もすんで、さてどこに遣《や》ろうという段になって、それが問題だ。衆議まちまち、なかなか決まらない。
 騒いでいると、英仏独
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