を帯び、現代そのもののような複雑性を暗示し、しかも、アラビアン・ナイトを思わせる絢爛《けんらん》たる回想であらねばならぬ。
マタ・アリの自叙伝なるものがある。それによると、彼女は、富裕なオランダ人の銀行家と、有名なジャワ美人の母との間に、ジャワ、チェリボン市に生まれた。十四の時、インドに送られて神秘教祭殿に巫女《みこ》となり、一生を純潔の処女として神前に踊る身となった。マタ・アリという名は、彼女の美貌を礼讃《らいさん》して、修験者《しゅげんじゃ》たちがつけたもので、Mata Hari というのは、「朝の眼」という意味である。この「朝の眼」が十六歳のとき、スコットランド貴族で、インド駐在軍司令部のキャンベル・マクリイ卿が、祭壇に踊っている彼女を見染《みそ》めてひそかに神殿から奪い去った。マクリイ卿夫妻は、インドで贅沢《ぜいたく》な生活を続けて、一男一女を挙げたが、土人の庭師が、マタ・アリへの横恋慕《よこれんぼ》から彼女の長男を毒殺したので、マタ・アリが良人《おっと》の拳銃《ピストル》で庭師を射殺した事件が持ちあがって、夫妻はインドにいられなくなり、倉皇《そうこう》としてヨーロッパへ帰っ
前へ
次へ
全68ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング