だった。そして縄梯子《ジャコップ》に足を掛けようとしている外国船員のところへ一散に彼は駈付けた。
「乗せて呉れ!」と彼は叫んだ。船員達は呆気《あっけ》に取られて路を開いた。
「乗せて行って呉れ、悪い奴に追っかけられてる。何処《どこ》へでも行く、何でもする。諾威《ノルウェー》船なら二つ三つ歩いてるんだ」船乗仲間にだけ適用する英語を為吉が流暢に話し得るのがこの場合何よりの助けだった。
「ぶらんてん[#「ぶらんてん」に傍点]か、手前は」
船側《サイド》の上から一等運転士《チイフ・メイト》が訊いた。
「ノウ、甲板の二等です」と為吉は答えた。
暫く考えた後、
「宜《よ》し、乗せて行く」
猿《ましら》のように為吉は高い側《サイド》を攀《よ》じ登って、料理場《ギャレイ》の前の倉庫口《ハッチウェイ》から側炭庫《サイドバンカア》へ逃げ込んだ。
「殺人犯だ! 解らんか、此の毛唐奴《けとうめ》、彼奴《あいつ》は人殺しを遣《や》ったんだ!」
遅れ馳《ば》せに駈けつけた刑事は息せき切って斯う言った。
「解らんか、ひ[#「ひ」に傍点]、と[#「と」に傍点]、ご[#「ご」に傍点]、ろ[#「ろ」に傍点]、し[
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