て出て来てひょろひょろ[#「ひょろひょろ」に傍点]此処に立ってやがるんだ。それが為吉を無性《むしょう》に怒らせた。いっその事予定通り此野郎が死んでいて呉れたら、そしたら? そしたら此儘此船で遠い懐しい海外へ行けるじゃないか――いや、待てよ、今だって決して遅くはないぞ。なあに訳はない、奴はあんなに弱り切って死んだも同然だ――否、事実死んでいるんだ。其証拠には此俺が下手人にされているじゃないか――、そして、そしておまけに此処は法の手の届かない貨物船の釜前《フレイタア》じゃないか――そうだ、今が絶好の機会だ――が、一体何の機会だと言うんだ――いや、どうせ森為吉が貰った筈の命なんだ、それでこうやって乗れた船だと言うまでのことなんだ。海外、外国、そうだ、この呪われた小刀《ナイフ》で――そうだ――教えられたとおりに――あの刑事に暗示されたとおりに――。
為吉は立上った。
「逃げる前に俺あ水が、水が呑みてえ――水――」坂本は唸るように言った。
※[#ローマ数字3、1−13−23]
警察の推測通りだった。坂本新太郎は死んだのである。そしてそれと同時に森為吉という男も地球の表
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