連か、浦塩《ウラジオ》か、何処だ」
「神戸だ」
「なに、神戸? 四、五日|機関《エンジン》が廻っていたと思ったが――」
「それがよ、此の俺が手前を殺《ば》らしたって騒ぎで、それで俺あ此船へぶらんてん[#「ぶらんてん」に傍点]したんだ。すると、いいか、陸から無電が飛んで来て船は召還よ。いってえ、あの梨を剥く時手前に借りた此の小刀《ナイフ》が好くねえ、おまけにあれで指を切ってるじゃねえか」
その小刀を逆手に持って為吉は奥炭庫《クロス・バンカア》の前の鉄梯子《タラップ》に腰を掛けながら、白痴のようににたにた[#「にたにた」に傍点]と笑った。彼は明らかに海の呼声を聞いたのである。自分の無罪を立証し得る悦びよりも、只《ただ》死損いの坂本を助ける為めに折角乗った此の船――しかも仲々|仕事口《チャンス》のない此頃、望んでも又と得られない好地位を見捨てて――船を降りなければならないのが不満で仕様がなかった。第一、恨みこそあれ、此奴を助け出すなんてそんな義務が何処にある。この男は俺に殺されたことになっているんじゃないか。と彼は考えた。いや、刑事も言った通り確かに俺が殺したんだ。それに何だって今頃になっ
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