発機《エヴァボレイタア》の蔭へ横ざまに倒れた。
「そこは不可《いけ》ねえ、直ぐ見付かる」と黒人が叫んだ。「停泊用釜《ドンキ・ボイラ》の上から水張りの隙間《スペイス》へ潜込むんだ。早く!」
低い掘通《トンネル》から灰の一|吋《インチ》も溜まっている停泊用釜《ドンキ・ボイラ》へ這上って、両脚が一度に這入らない程の穴から為吉は水管の組合っている釜《ボイラ》の外側へ身を縮めた。火の気のない釜の外は氷室《ひむろ》のように冷えていた。掘通《トンネル》の扉《ドア》を締めて出て行くボストンの跫音が聞えた後は、固形化したような空気が四方から彼を包んで、水準下の不気味な静寂に耳を透ましていた為吉は、不自然な姿勢から来る苦痛をさえ感じなかった。が、考えても見なかった、何のためにこんな事をしているのか、それは自分でも解らなかったからである。
こつ、こつ、こつ、じい――い。
と、何処からともなく鉄板を引掻くような音が聞えて来た。おや、と為吉は思った。
こつ、こつ、こつ、じい――い。
音は釜《ボイラ》の中からするようでもあったし、釜前《ダンピロ》の通風器《ヴェンチレエタア》から洩れるようにも聞えた。
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