》し、じゃ逃げるだけ逃げて見ろ。何とかなる」と一運《チイフ》は又哄笑した。
「機関部の奴に預けましょうか」と水夫長《ボウシン》が尋ねた。
「そうだ、ボストンを呼べ、ボストンを」
 水夫長《ボウシン》は毯のように飛び出して行って直ぐ前の機関室の汽※[#「竹かんむり/甬」、第4水準2−83−48]《セリンダア》の上から呶鳴った。
「ボストン! 真夜中《ミド・ナイト》ボストウン!」
 間もなく七尺に近い黒人が油布《ウエイス》を持った儘のそっ[#「のそっ」に傍点]と這入って来た。
「此奴を隠すんだ、早く連れて行け」
 一運《チイフ》は頤《あご》で為吉を指した。ボストンはちらっ[#「ちらっ」に傍点]と彼を見遣って黙って先に立った。為吉は一歩|室外《そと》へ踏み出そうとすると、
「一等運転士《チイフ・メイツ》、警察が来ました」とボウイが走込んで来た。右舷《スタボウド》の甲板に当って多勢の日本語の人声がして居た。ボストンの腕の下を駈抜けて為吉は機関室の鉄階段《タラップ》を転がり落ちた。この騒ぎで機関室にも釜前にも誰もいなかった。|水漉し《フィルタア》へ逃込もうとした彼は、油に滑って其儘ワイヤア氏|蒸
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