こつ、こつ、こつ、じい――い、じい。
はっ[#「はっ」に傍点]と彼は思い付いた。よく船員達が爪で卓《テーブル》などを叩いて合図する無線電信《ワイヤレス》、万国ABCの略符合《コウド》なのだ、そして確かに停泊用釜《ドンキ・ボイラア》の中から聞えて来るではないか!
どやどやと靴音がしたかと思うと、
「御覧の通り誰も居りません、わっはっは」という一等運転士《チイフ・メイト》の声がして、続いて二言三言会話があった。一同が出て行った後、為吉は死んだようになって水管《ヴァルヴ》に頬を押付けた。
こつ、こつ、じい――。
前よりも一層明瞭に響いて来た。無意識に彼の頭はそれを翻読した。SOS! 難破船が救助を求める信号ではないか!
為吉はぎょっとした。隠しから小刀《ナイフ》を取出して水管を叩いた。「ナニコトカ――」
こつ、じい、こつ、こつ、こつ、じ――い。
「Shanghai――」と返信があった。
上海《シャンハイ》? ナニコトカ[#「ナニコトカ」に傍点]と彼は又|水管《ヴァルヴ》を掻いた。
「Shanghaiされた」
上海《シャンハイ》された! 通行人を暴力で船へ攫《さら》って来て出帆
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