ッキ》部員をも支配していた。機関部の油虫《カクロウチ》なんか|船乗り《セイラア》なぞという意気なものではないと為吉も子供の頃から思込んでいた。で、格別の注意を払わなかったが、同室のボウイの口から甲板《デッキ》部の下級員《クルウ》が十七人、機関《エンジン》部が二十一人で、船はこれから一直線に南下して木曜島で海鳥糞を積み、布哇《ハワイ》を廻って北米西海岸グレイス・ハアバアで角材を仕入れ、解氷を待ってアラスカのユウコン河をクロンダイクまで上る筈だということなどを聞出すのを忘れなかった。それまでが今度の遠洋航路の第一期で、それからは傭船《チャアタア》の都合で何処へ行くか判らないとのことだった。電報一つで世界中何処へでも行く不定期貨物船《トランプ・フレイタア》の一つであった。
 出入港には多少の感慨を持つのが、荒っぽいようで感傷的な遠航船員の常だった。それが妙なことには、今度の為吉の場合には安堵と悦びの他何もなかった。その安心が大きければ大きいだけ、彼は無意識の内に恐しい自己暗示にかかっていたのである。
 箱のような寝台《パアス》の中で毛布にくるまって眼を閉じた時、自分に掛かっている嫌疑を思って
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