す。やくざ[#「やくざ」に傍点]めいたこんな間違えでお上へお手数を掛けようなんて、そんなけち[#「けち」に傍点]な了見はこれっぽちもございません」
 と暗に助五郎の来訪を迷惑がるような口吻を洩らして、それとなく逃げを張るだけの用心も忘れなかった。
 助五郎は黙っていた。脚を二つに折って、きちん[#「きちん」に傍点]と揃えた膝頭へ叱られる時のように両の手を置いた儘、彼は外見だけはいかにもしんみりと控えていた。が、両の眼を何げなさそうに走らせて、部屋の造作《ぞうさく》や置物、調度、さては手廻りの小道具へまで鋭い評価と観察を下すのに忙しかった。おろくが茶を持って這入って来た。
 豊住又七というこの笛の師匠が、その芸に対する賞讃と同じ程度に人間として、色々悪い評判のあることは、助五郎も以前以前《まえまえ》から聞き込んでいた。自信が強過ぎるとでも言おうか、万事につけて傍若無人の振舞いが多く、この点でも充分|遺恨《うらみ》を含まれるだけのことはあったろうが、その上に、又七は有名な吝嗇家《けちんぼう》なばかりか、蓄財のためにはかなり悪辣な手段を執ることをも敢て辞さないと言ったようなところがある、とは
前へ 次へ
全19ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング