、あの不自然な又七夫婦の態度、すこし過分な、羽二重の熨斗《のし》、四日前の大浚え、それから暗打《やみう》ち――助五郎はにやり[#「にやり」に傍点]と笑った。一つの糸口が頭の中で見付かりかけた証拠である。足を早めて望月と並びながら、ずい[#「ずい」に傍点]と一本突っ込んだ助五郎には、もう持前の江戸っ児肌が返っていた。
「のう、家元さん、四日前にゃよく切れやしたの、え、おう?」
「――」望月は眼をぱちくりさせて立竦《たちすく》んだ。
「いやさ、絃がよく切れたということさ」
と助五郎は重ねて鎌を掛けた。
「え?」
「まあさ」と助五郎は微笑んで、「竪三味線《たてじゃみせん》は杵屋の誰だったっけ?」
「雷門《かみなりもん》。へへへへ」望月は明らかに度を呑まれていた。
「雷門、てえと竹二郎《たけじろう》師匠かえ?」
「へえ」
「蔵前へ近えな」
「へへへ、和泉屋さんの掛り師匠でげす、へえ」
「ふうん」助五郎はやぞう[#「やぞう」に傍点]で口を隠しながら、
「のっけ[#「のっけ」に傍点]から切れたろう――一番目は?」
「八重九重桜花姿絵《やえここのえはなのすがたえ》」
「五郎時宗《ごろうときむね》、
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