こそ、へっへ、あれだけの顔が揃ったというもの、そこへお師匠さんまで出張《でば》って呉んなすったんでげすから、若旦那も冥加《みょうが》に尽きるなかと申してな、へっへ、下方衆《したかたしゅう》はもう寄ると触るとその噂で――いや、本心、へへへへへへ」
 望月、さては長唄下方《ながうたしたかた》の望月だな、と助五郎は小膝を打ちながら、それにしても和泉屋の若旦那というのは? 四日前の大浚えとは? ――さりげなく又七へ視線を向けると、又七は煙たそうに眼を伏せて、出もしない咳を一つした。
 饒舌《しゃべ》る丈《だ》け喋《しゃべ》って終ったらしく、表の男はなおも見舞いの言葉を繰り返しながら、そそくさと出て行った。と、急に気が付いたように、助五郎も立ち上った。鬼瓦《おにがわら》のような顔が、彼の姿をちょっと滑稽に見せていた。又七もおろくも別に止めようとはしなかった。それどころか、却って内心ほっとしているらしかった。別れの座なりを二つ三つ交わした後上り口まで行った助五郎は、ずかずかと引っ返して来て、何を思ったものか矢庭にお神棚の下の風呂敷を撥《は》ね退けた。
「ほほう、お内儀、見事な羽二重が――和泉屋さん
前へ 次へ
全19ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング