加え、二つともトランクへ詰めてロスアンゼルスへ送った――街上で、家庭で、事務所で、話しはこれで持切りだという。北二丁目二九二九番地の家の周囲には、田舎のことだが、物見高い。地方民で暇も多いのだろう、アリゾナ名物のカウボウイやなどが、わんわん詰めかけて来て、恐怖に口を開けて、小さなバンガロウを取り巻いている騒ぎ。焼大福や、稲荷ずしの屋台店が出て――そんなことはないが――サミイとアンは死ぬ日まで、その家に幸福に笑いさざめて暮していたのだった。
 ヘドウィッグ・サミュエルスンと、アグネス・アン・ルロイ夫人と――この二人の犠牲者の女のあいだには、異常な特殊関係があったというフォニックス警察側の報告である。サミイは約一年前に、アラスカのジュノウで、アン・ルロイに逢ったもので、当時サミイは、同地の小学校で教鞭を執っていたのだが、肺病が進んで悲観しているところへ、アン・ルロイの同情が、二人の仲を友情から同性愛にまで進めたのだった。よくあるやつで、ルロイは、年三十の健康な、自尊心の強い、男性的な女である。良人はあるが、良人とそりが合わなくて別居しているのだった。看護婦として、サミイに尽した親切が、五ツ年下の美しい女への愛と変って、相互に普通の男女間以上の切っても切れない気持ちへまで進展したことは、想像に難くない。このアンの薦めで、サミイは寒帯地方のアラスカを捨てて、沙漠を渡る風の涼しい、四季いつも秋のような、空気の好いアリゾナ州へ移ったのである。
 X光線係看護婦として、ロア・グルノウ記念療養院に働いているアン・ルロイは、仕事が済むと直ぐ、矢のように北二丁目の家へ帰って、まるで愛妻家の良人が、病める妻の世話をするように、料理から家事のすべては勿論、まめまめしくサミイの面倒を見る。サミイはアンの命令で、一日一杯寝床に就いているのだった。この、アンの献心的な愛には、サミイも深く感動して、アンのことを少しでも悪く言う者があると、狂気のように食って掛る有様だった。
 病院では、アンも男の識合いが少からずある。それらが頻繁に二人を訪れるのを、アンはすこしでもサミイの気が紛れるようにと、喜んで迎えていた。
 この話しを終った後、フォニックスの警察官一行は、ジュッド医師と、バアトン・マッキンネルを呼び出して貰って、別の立場から訊問を開始する。ジュッド医師は、すっかり打ちひしがれたようになっていて
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