マスター》の御政治をこころの底から讃《ほ》めたたえて、この区域から立ち昇るWARNという感謝の声々が一つ一つ、忠実な銀蠅《ぎんばえ》に化けて、あるものは「奴隷の湖」を越してマカラム街に櫛比《しっぴ》する珈琲《コーヒー》店の食卓へ、またはホテル皇太子《プリンス》の婦人便所へ、他の一派は、丘の樹間に笹絹《レース》のそよぐ総督官舎の窓へと、それぞれに答礼使の意図をもって、ぶうん、ぶうんと飛行して行った。
 そのマカラム街には、赫灼《かくしゃく》たる陽線がこんな情景を点描していた――。
 紺青《こんじょう》に発火している空、太陽に酔った建物と植物、さわるとやけどする鉄の街燈柱、まっ黒に這《は》っているそれらの影、張り出し前門《ファサード》の下を行くアフガン人の色絹行商人、交通巡査の大|日傘《ひがさ》、労役牛の汗、ほこりで白い撒水《さっすい》自動車の鼻、日射病の芝生《しばふ》、帽子のうしろに日|覆布《おおい》を垂らしたシンガリイス連隊の行進、女持ちのパラソルをさして舗道に腰かけている街上金貸業者、人力車人《リキシャ・マン》の結髪《シイニョン》、ナウチ族の踊り子の一隊、黄絹のももひきに包まれた彼女
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