マスター》」方の来潮に備えていたのだ。
多美児《タミル》族の女たちは昼は、暗い土間の奥から行人《こうじん》に笑いかけたり、生薑《しょうが》水をささげてテーブルへ接近したり、首飾りを手製するために外国貨幣をあつめたりした。そして、夜は、籐駕籠《パランキン》に揺られて英吉利《イギリス》旦那のもとへ通ったり、ひまな晩は、馬来竹《マライ・ラタン》で笊《ざる》を編んで、土人市場のアブドの雑貨店へ売り出した。
3
「また来てる」
「どこに」
「あすこに」
「あら! ほんと」
キャフェ・バンダラウェラで、タミル種族の女給たちが、こんなことを言いあった。
マカラム街は「堡砦区《フォート》」と呼ばれるコロンボ市の中心に近く「奴隷の湖」をまえにしている欧風の散歩街だった。コロンボは、この王冠植民地《クラウン・コロニー》の王冠《クラウン》で、そして、それは、前総督ヒュー・クリフォード卿《きょう》によれば「東洋のチャーリン・クロス」でもあった。各会社大客船の寄港地。貨物船による物資の集散。濠州《ごうしゅう》、あふりか、支那《しな》、日本への関門。そうです。十六世紀に、葡萄牙《ポルトガル
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