得るわけはない。旅行者の発見するものは、心臓的な歓迎と、微笑と、丁重《ていちょう》だけだ。だから、白人の旅行者は、いっそう気をつけて、黒い神経にさわるような言動はいっさいつつしんでもらいたい。態度の優美は「大いそぎの文明国」でよりも、かえってこの「怠慢な東洋」で完全に実行されている。で、みんな静かに、しずかに動き回ること――うんぬん。
 と、これらのすべては、前提旅行会社が白い人々に対して発している心得《ノウテス》やら|お願い《レクエト》やらだが、そこで、欧羅巴《ヨーロッパ》の旅行団は、このことごとくを承知したうえで、せいろんへ、せいろんへ、せいろんへ、すうつ・けいすの急湍《きゅうたん》が、かあき色|膝《ひざ》きりずぼんの大行列が、パス・ポートが、旅人用手形帳《トラヴェラアス・チェッキ》が、もう一度、せいろんへ、せいろんへ、せいろんへ――無作法な笑い声のあいだから妖異《ようい》な諸国語を泡立《あわだ》たせて、みんなひとまず、首府コロンボ港で欧羅巴からの船を捨てた。
 すると、同市マカラム街の珈琲《コーヒー》店キャフェ・バンダラウェラでは、タミル族の女給どもを多量に用意して、この「旦那《
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