は、その風光の美と豊富さにおいて、他にこれを凌駕《りょうが》するものなし。赤道を北に去ること四百マイルにして、中部以南はいささか暑さに失するきらいありといえども、それも、つねに親切なる涼風に恵まるるため、決して他国人の想像するほどにてはあらず。ことに、一歩北部連山地方にいたらんか、その温候は四季を通じて倫敦《ロンドン》の秋を思わしめ、自然の表情、またこの山岳部にきわまるというべし。途中、古蒼《こそう》の宗教都市カンデイあり。史的興味と東洋色の極地を探ねて、遠く白欧より杖《つえ》をひく人士、年々歳々――うんぬん。
 コロンボ市はもちろん、カンデイ市および丘郡《ヒルごおり》のニューラリアには「こんなところにこんな!」と驚く壮麗なホテルがあって、それぞれ穏当な値段で訪問者に「旅の便宜」をあたえている。だから、せいろんは、いまでは、時計ばかり見て急ぐ寄港者よりも、欧羅巴《ヨーロッパ》の公休を日限いっぱいに費やそうという長期滞留の旅客のほうを、はるかにたくさん持つ。以下はこの錫蘭島の提供する吸引物《アトラクション》のほん[#「ほん」に傍点]のすこしの例――豪華な見物自動車。十一人で十一か国語を話
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