し、それから隠士《レクルウス》に転化し、第四に、そして最後に、森へ入って、茎類《ハアブ》を食し、百姓どもの慈善を受けて乞食にならなければならない。このうらやむべき境涯《きょうがい》にいたって、はじめて婆羅門アウルヤ学派の知識と名乗り、次ぎの世に生まれ変わりたいと思うものをも、自由自在に望むことが許されるのである。ヤトラカン・サミ博士は、ただ、森林の乞食の代わりに、市街の乞食をえらんだだけだ。森には、白い美女がいない。しきりに彼女らの恥ずかしがる言葉をささやいて、ひそかに復讐《ふくしゅう》の一種を遂げることが、森林ではできない。そういう快《かい》を行《や》る機会がないのだ。が、コロンボ市の旅行者区域マカラム街あたりをこの椅子《いす》で「流し」ているかぎり――ヤトラカン・サミ博士は、こんど生まれ変わる時は、どうかして、その、奥様《ミセス》たちのブルマスに化身《けしん》したいものだと、いつも、こんなに突き詰めて考えているくらいだった。
そして、あの、うまく乞食の域にまで到達したときに、森へ行かずに、コロンボ市中に踏みとどまっていたからこそ、ヤトラカン・サミ博士は、これは、もう十何年も前のこ
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