の性生活を言い当てたり、あたらしい秘密の刺激をあたえたりするときは、老年の博士自身も、どうかすると、その大椅子の上で、ふと[#「ふと」に傍点]異常な興奮を感ずるようなことがないでもなかった。この、ヤトラカン・サミ博士の椅子車というのは、腰かけるところも、両脚も、うしろの寄りかかりも、すばらしく大々《だいだい》とした珍しいもので、ちょうど女がひとり、股《また》を広げてしゃがんで、上半身をまっすぐに、両手を前へ伸ばして、まるで、ヤトラカン・サミ博士を背後から抱擁しているように見える、特別のこしらえだった。どこからどこまで、幅の広い、分の厚い、頑丈《がんじょう》な、馬来《マライ》半島渡来の竹籐《ラタン》で籠編《かごあ》みにできていて、内部は、箱のようになっているらしかったが、表面は、全体を雲斎織《ドリルス》で巻き締めてあって、上から、一めんに何か防水剤のような黒い塗料がきせてあった。そして、それに、小さな車輪と、運転用の鉄の棒とが付いていた。博士は、まるで躄《いざり》のようにこの椅子車に乗ったまま、自分で動かして、外国人のいそうなところは、ピイ・ノオ汽船会社の前でも、デヒワラ博物館の近くへで
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