緒《かわお》をすげた印度《インド》履き物を素足《すあし》で踏んで、例の移動|椅子《いす》に腰かけて、それを小舟のように漕《こ》いで、そうして、胸のところへ、首から、手垢《てあか》で汚れた厚紙《ぼうるがみ》の広告をぶら[#「ぶら」に傍点]下げて、日がな一日、毎日毎日このマカラム街を中心に、このへん一帯の旅客区域の舗道を熱帯性の陽線に調子を合わして、ゆっくりゆっくりと運転し歩いていた。
 その広告紙には、博士が、話しかけながら、日本人の旅行者夫妻にも見せたように、こう英吉利旦那《イギリスだんな》の文字がつながっていた。
「倫敦《ロンドン》タイムスとせいろん政府によって証明されたる世界的驚異・印度《インド》アウルヤ派の手相学泰斗・ヤトラカン・サミ博士、過去未来を通じて最高の適中率・しかも見料低廉。とくに博士は、婆羅《はら》・破鬼《シヴァ》に知友多く、彼らの口をとおして旦那《マスター》・奥方《ミセス》の身の上をさぐり出し、書物のように前に繰りひろげてみせることができます。あなたは、ただ黙って、博士の眼の下へあなたの手のひらを突き出せばいいのです・うんぬん」
 ヤトラカン・サミ博士は、この、売占
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