。恐れおののいた人々は、自分の手のひらの線や紋と、それと糸を引く頭上の星とを、たとえば金牛線と金牛宮、処女紋と処女座といったふうに、対照し、相談し、示教を乞《こ》い、そのうえ、草木の私語《ささやき》に聴覚を凝らし、風雨の言動に心耳《しんじ》をすまし、虫魚の談笑を参考することによって、自己の秘願の当不当、その成否、手段、早道はもとより、一インチさきの闇黒《あんこく》に待っている喜怒哀楽の現象を、すべて容易に予知し、判読し、対策し転換を図ることができると知ったのである。あらびやん占星学《アストロジイ》は、印度《インド》アウルヤ派の正教に進入して、ここに、この手相学《パアミストリイ》を樹立していた。そして、それはいま、タミル族の碩学《せきがく》ヤトラカン・サミ博士に伝わっているのだ。これは、何千年か昔のできごとであると同時に、また、この瞬間の現実事でもあった。ヤトラカン・サミ博士は、おそらくは英吉利旦那《イギリスマスター》の着古しであろうぼろぼろ[#「ぼろぼろ」に傍点]のシャツの裾《すそ》を格子縞《こうしじま》の腰巻《サアロン》の上へ垂らして、あたまを髷《シイニョン》に結い上げて、板きれへ革
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