た。空は一度、すんでのことで地に接吻《せっぷん》しそうに近づき、それから、こんどはいっそう高く遠く、悠々《ゆうゆう》と満ち広がった。そうして、この、物理の懊悩《おうのう》と、天体の憂患と、犬猫《いぬねこ》の狼狽《ろうばい》と、人知の粉砕のすぐあとに来たものは、ふたたび天地の整頓《せいとん》であり、その謳歌《おうか》であり、|ひまわり《サン・フラワー》どもの太陽への合唱隊だった。が、そこに新生した蒼穹《そうきゅう》は、全く旧態をやぶったすがただった。白髪白髯《はくはつはくぜん》の博識たちがあっ[#「あっ」に傍点]とおどろいているうちに、山から山へ、いつの間にか脈々たる黄道《こうどう》の虹《にじ》が横たわっていた。暗黒と光明の前表は、鹹湖《かんこ》にも、多島海にも、路傍の沼にも、それこそ、まるで水草の花のように浮かんで、なよなよ[#「なよなよ」に傍点]と人の採取を待つことになった。これは、つまりは星が映っていたのだ。が、この新発見に狂喜した人々は、はじめて、希望をもって上空を仰いだ。そこには、あの架空塔の倒壊事件以来、羊や山羊《やぎ》や蟹《かに》や獅子《しし》や昆虫《こんちゅう》のたぐいに
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