・サミ博士は、はじめ日本人が梵語《ぼんご》であろうと取ったところの、つまり、それほど自家化している、英吉利旦那《イギリスだんな》のことばを、例のうす眠たい東洋的表現とともに、ふわりと、じつにふわあり[#「ふわあり」に傍点]と投げかけた。
「旦那《マスター》、ちょっと、手相を見さしてやって下さい。やすい。安価《やす》いよ――」
 と。

       5

 ヤトラカン・サミ博士は、ひそかに人間の生き方を天体の運行と結びつけていた。
 こんなぐあいに。
 はるか西の方《かた》バビロンの高山に道路圧固機《ステイム・ロウラー》の余剰蒸気のようなもうもうたる一団の密雲が湧《わ》き起こった。
 それが、白髪白髯《はくはつはくぜん》の博識たちがあっ[#「あっ」に傍点]と驚いているうちに、豪雨と、暴風と、鳥獣の賛美と、人民の意思を具現し、日光をあつめ、植物どもの吐息を吸い、鉱石の扇動に乗じて、いつの間にか、絢爛《けんらん》大規模な架空塔の形をそなえるにいたった。これは、何千年か昔のことでもあり、また、毎日の出来事でもあるのだ。
 が、この雄壮な無限層塔の頂きには、ばびろにあ[#「ばびろにあ」に傍点]
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