》かれた。
 ウォルタアが帰って来た。が、彼の話は簡単だった。午後三時ごろ、チャアリイと二人で家の前に遊んでいると、小さな荷馬車で通りかかった二人の男が、この馬車で面白いところへ伴《つ》れて行ってやるから乗らないかと誘ったのだという。この年ごろの男の子は、乗物というと夢中なものだ。自家には立派な自動車があるけれど、自動車には飽きている。かえってその汚い荷馬車に、拒《こば》みきれない子供らしい誘惑を感じたのだろう。幼い兄弟は無邪気に笑いさざめて、さきを争って馬車へ這《は》いあがった。馬車は走り出す。逃げるように速力を増す。巷《ちまた》の景色は、おんば日傘で育ってきた子供たちに、このうえなく珍らしかったに相違ない。はじめのうち、二人は手を拍《う》って喜んでいたが、やがて市街を出外れて淋《さび》しい田舎道にかかると、子供ごころに急に不安を感じたものか、ウォルタアが大声に泣き叫び出した。すると、人の注意を惹《ひ》くことを恐れたとみえて、二人の男はすばやく相談ののち馬車を停《と》めて、そこの路傍《ろぼう》の草の上へウォルタアだけをおろしたのである。そして、恐怖も不安もなく、にこにこ笑っているチャ
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