た。人間はなにによらずすべての物ごとを、最後の最後まで、漠然ながら自分にとって有利にのみ信じていたい生物である。この物語は、その間のこころもちをよく現わしている。
やがて、十二時。いよいよ上を下への騒動になっていたロス氏邸で、このときけたたましく電話のベルが鳴った。
警察からである。
「ウォルタアだけは見つかりました。八マイル市外の田舎《いなか》道で泣いていました。奇怪な話を持っています。すぐにお宅へ送りとどけますが、チャアリイのほうは、いまのところまだ不明です。」
ウォルタアというのは、七つになる上の児で、弟のチャアリイは三歳。三つといっても西洋の三つだから、日本の数え年にすると四歳ないし五歳にあたる。ウォルタアも八つか九つのわけだが、とにかく、一緒に出た兄弟のうちウォルタアだけ発見されて、チャアリイは? No trace of Charlie, so far! 昂奮した声がこう叫ぶようにいって、警察からの電話は切れた。
八マイル市外の田舎道、奇怪な話――ロス氏は、ここに初めて、事件を全然別な色彩で見た。そしてその容易ならぬ予感にはっきり[#「はっきり」に傍点]と胸を衝《つ
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