客間に対座するとすぐ、ロス夫人が言った。
「きっとお笑いになるだろうと思ってずいぶん躊躇《ちゅうちょ》いたしましたが、あんまり気になりますので、思いきっておいでを願いました――じつはわたくし、夢をみました。」
「ははあ、夢を――。」ウォウリング氏はちょっと奇妙な顔をしたが、さすがに笑いはしなかった。「で、どんな夢でしたか。承《うけたまわ》りましょう。」
この、悲嘆に打ちのめされている夫人の手前だけでも、彼は、笑えなかったのである。すこし逡巡《しゅんじゅん》したのち、夫人はその夢物語をはじめた。
「チャアリイの夢でございます。はっきりと見ました――沼のような、川のような、とにかく水のあるところでした。葦《あし》の間にボウトが浮かんでいます。そのボウトの底に――。」
警部の顔を一種恐怖に似た驚愕《きょうがく》が走った。
「なんですって? 水? ボウト?」
「ええ。そのボウトの底に、痩《や》せ衰《おとろ》えたチャアリイが、手足を縛られて、倒れていました。わたくしを見て、ママア、ママアと細い声で呼びながら、いつまでも泣いていますの。チャアリイ! と呼んで駈け寄ろうとしますと、自分の声で
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