真は、海を渡って、英国はじめ大陸の新聞にも「探ね人」の註とともに載《の》った。一説に、誘拐《ゆうかい》者はチャアリイをヨーロッパへ伴《つ》れ渡ったらしいという噂があったからだ。同じ年ごろの子を持つ人々は、だれも他人事とは思わなかった。いままであんまり構《かま》いつけなかった子供を急に大事にしはじめるやら、ちょっと姿が見えないといっては大騒ぎするやら、それを裏庭で「発見」した母親が頬擦《ほおず》りして泣くやら、父親は、思い出したように子供を坐らせておいて、街上の見知らぬ人を用心しなければならない必要を汗を掻《か》いて説明するやら、全米国で、三、四歳の小児が一躍《いちやく》家庭の花形におさまり、すっかり豪《えら》くなってしまった。とにかく、いたるところで悲喜劇が醸《かも》された。
 この騒動の最中、万事実際的なアメリカに、はなはだアメリカらしくない、一つの神秘的な挿話が持ちあがった。ある晩、ロス夫人が夢を見たのだ。
 その翌日、ロス氏邸から電話によって、ニューヨーク警視庁――事件の捜査本部はこの時ニューヨーク警視庁に移されていた――から、ただちに係りの探偵長ウォウリング警部が出張して来た。
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