驚きはしない。警察は、チャアリイの発見とわれわれの首へ大枚の賞金を懸けている。しかし、これは、チャアリイの身にとってじつに危険なことと思わないか。もし警察が、チャアリイにたいして、父親である貴下と同じ心臓をもっていたら、おそらくかかる愚《ぐ》はあえてしなかったであろう。二万五千ドルの懸賞はとりもなおさず御子息チャアリイの首にかけたもの、それは、明らかにチャアリイの犠牲を前提としていることを御|賢察《けんさつ》ありたい。」
[#ここで字下げ終わり]
 大体こんな文面だった。そして、それきりぱったり[#「ぱったり」に傍点]通信は絶えた。

 ロス夫妻の心痛がどんなに大きかったか、それはいうまでもなかろう。センセイショナルな事件ならなんでも好きなアメリカのことである。このときはすでに全国煮えくる返るような騒ぎで、同情は雨のように夫妻の上に集まっていた。溺《おぼ》れる者と同じ心持ちから、夫妻は藁《わら》をも掴《つか》みたかったに相違ない。水兵服を着て頭を分けた、可愛いチャアリイの写真が、発見のよすが[#「よすが」に傍点]にもと、毎日アメリカの新聞に掲載されて、人の親の泪《なみだ》をそそった。写
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