片《にくきれ》でも見せながら、そっ[#「そっ」に傍点]と近寄ろうとする。この場合、第一の禁物は犬を怒らせたり驚かしたりすることだ。こっちには貴重品だが、犬にとってはなんでもない。すでに荷厄介《にやっかい》になっていて、いつ気が変わって噛《か》み破るかもしれないのだ。はらはら[#「はらはら」に傍点]しているところへ、その貴重品には比較的関係の薄い第三者が現われて、いきなり、犬を追いまわしたとしたらどうだ? この第三者は、犬と品物とを、一しょに押えようとしたまでで、けっして品物の安否《あんぴ》を無視したわけではないが、結果から見て、その行為は品物の安否を無視したことになり、所有者の恨《うら》みを買いこそすれ、感謝されはしないであろう。犬は、驚いた拍子《ひょうし》に、あるいは、怒りに任せて、きっとその貴重品を滅茶滅茶《めちゃめちゃ》にして、おまけに逃げてしまうに相違ないからである。このロス事件の場合がちょうどそれだ。まず肉でもなんでもやって品物を放させたのち、犬を捕まえにかかればよかったのだ。警察は法規と威信《いしん》にかまけて思慮がたらなかったといわれてもぐう[#「ぐう」に傍点]の音《ね》
前へ
次へ
全36ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング