も出まい。

 しかし、警察には確たる逮捕の見込みがついているのだ。だから、任せておいてみるがいいとばかりに、おおいに腰が強かった。こうして、いよいよロス氏と警察の間に意見が背馳《はいち》してくると、警察は急に積極的に出た。
 とつじょ、警察の名で新聞広告を出して、チャアリイ・ロスの発見、ならびに誘拐《ゆうかい》者の捕縛《ほばく》に資する重要材料の提出者には、告知と同時に二万五千ドルを与えるというので、これはじつに、真正面から誘拐者を相手どった、思いきった挑戦だった。
 これがいけなかった。この一片の新聞広告である。フィラデルフィアの警察がいまだに責められているのは。そして、いくら責められても仕方がないのは。
 素人《しろうと》が考えてもわかる。これではまるで犯人を愕《おどろ》かして警戒させ、狂暴なやつをいっそう狂暴にし、子供なんかどうでもいいから逃げるならいまのうちに逃げろというのと同じである。が、警察としてはこの態度が正しかったのだろう。立場からいって、ロス氏のように初めから折れて出ることはできない。子供を返してくれ。金はいうだけやる。しかも警察はけっして干渉しない。いわゆる no
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