である。この必要におうじて、なぜ警察ははじめ見て見ぬふりをし、眼をつぶって犯人とロス氏の間に子供の身柄と金銭の授受を完了させ、しかるのちに、あらためて犯人の捕縛《ほばく》にむかって探査の歩を進めなかったか。このほうがかえって新しく犯人の足跡を辿《たど》る意味でも好|都合《つごう》ではなかったか。が、ちょっと考えただけでも、その金の目じるし、用途など有力な手がかりが新たに得られるはずではないか。なんといってもむこうが子供を押えているあいだ、強みはむこうにある。言いなり次第になってまずその手から子供を引き放し、それから警察として独自の活躍に移るというのが、この際最上の分別《ふんべつ》ではなかったか。とにかくこの事件は、ちょうど狂暴な野犬がなにか毀《こわ》れやすい貴重品をくわえて庭へ逃げてしまった。それを、なんとかしてうまくだまし[#「だまし」に傍点]て取り返そうとしているのと同じで、貴重品の所有主《もちぬし》にとっては、犬なんか捕まろうと逃げようとたいした関心ではない。それよりも、犬が毀さないうちに品物を取りあげてしまわなければならないから、自然「よしよし」なんかとお世辞を使って、交換に肉
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