に、匿《かくま》われているのを知っているとか言って出てくる者があれば、それは犯人か犯人のまわし者にきまっている。しかしこれではまるで私が誘拐《ゆうかい》しましたと自首して出るようなもので、そんな馬鹿なことをするやつはあるまい。そうすると、隠れている誘拐《ゆうかい》犯人になにか音《ね》を出させるためには、ロス氏としては、まずなによりも、犯人にむかって絶対に逮捕の危険のないことを確保しなければならないのだが、警察は、その保証を与えることを拒絶した。
 警察の言い分ももっともである。
「なるほど、ロス氏は子供さえ取り返せばいいのだろう。そのためには、大金を出すことも辞しまい。ロス氏は金がある。事実、全財産を投げ出してもいいとまで言っているが、そんなことをされては、まるで誘拐《ゆうかい》者に賞金を与えるようなもの、この種の犯罪を奨励《しょうれい》するのも同じで、われわれの眼の下で、こういう取引が行なわれるのを、法として許すわけにはゆかない。金と交換に子供さえ返して寄こせば、警察は指一本触れないなどというのはもってのほかだ。そんなことがあっては無警察状態である。われわれの存在を無視し愚弄《ぐろう
前へ 次へ
全36ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング