拐《ゆうかい》者のほうから、なんらかの方法でなんとか言ってくるだろう。そうしたら、あと身代金《みのしろきん》の額の問題と、交換の場所方法などに関する交渉だけだ。いわば、事は取引になる。急報によって避暑先から帰って来ていた夫人にも、ロス氏はこう慰めるように言って、誘拐者の第一通信をじっ[#「じっ」に傍点]と待っていた。
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が、いつまで待っていても仕方がない。で、ロス氏の方から、新聞広告を仲介に、進んで誘拐《ゆうかい》者へ話しかけた。七月三日付けのフィラデルフィア発行の諸新聞は、すべてこのロス氏の探人広告を大きく掲げている。いうまでもなく広告の形式はあくまでも一般公衆に宛《あ》てたもので、「チャアリイの発見、もしくはその所在を知るに役立つ報道を※[#「斎」の「小」に代えて「貝」、52−7]《もたら》した人へはそうとう以上の金員《きんいん》を呈する」むねをわざと簡単に記すにとどまり、犯人に警戒させないために深甚《しんじん》の注意を払ってあった。
すると、ここに一つ、困った問題がおきた。というのは、どうせこの広告を見て、チャアリイは私の家にいますとか、これこれのところ
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